世界から希望が消えた日(LIGHTNESS)
天使

§ Diēs Mundō Spēs Abisse

1: 彼は言った「なんじら聴け」
2: 「私は闇である」「私は死である」「私は狂気である」「私は終焉しゅうえんである」
3: 「全ての者よ、絶望すべし」

4: ¶ あらゆる疫病えきびょう戦慄せんりつ災禍わざはひ罪過つみが地に満ち、
5: 海底と天空に至るまでを汚し尽くした。
6: 彼がその鎌を一度振り上げると、一万の人が血を噴き、
7: 二度振り上げれば二万の人が血を噴き上げた。
8: やがて草はそよぐのをやめ、鳥は飛ぶのをやめ、獣は走るのをやめた。

9: ¶ 黒い翼が空を覆ひ、地の果てに届くと、
10: は冷たく凍り、夜は嘆く者をて殺した。
11: つ者々は祈り、頭を地に伏せ、わづかな光を望み、悪夢の醒めることをう願ふも、
12: 往末ゆくすゑは黒い翼に遮られ、天使たる絶望の影に人々はおそおののひた。
13: 足に平伏ひれふす者をき、善悪に染まる者を絞めり、這廻はひもとほろふ者を突きとめた。

14: ¶ 彼は声高らく「神をあがめる者よ、これが神である」
15: 「罪たぐひなる者は万人ばんじんその血肉をもつて腐りけがれた地に収めよ」
16: 言い放ち鎌を振り上げると、その一振りは五万の男の首をぎ払つた。
17: 二振りは五万の女の首を薙ぎ払つた。
18: 三振りは五万の子供の首を薙ぎ払つた。
19: 四振りは五万の老人の首を薙ぎ払つた。

20: ¶ 川は沈み、山は穿うがり、海は裂け、空はよどんだ。
21: そして大地が死災無量に満ち、世界からかつなる音が消え、
22: あまね生命いのちの息も絶へ静まるまで、彼を止める者はあらじ。