渡る舟人


2021.3.1
靁羽
朝霧に色映える 散り牡丹
人はいくつ年くらうも
変わらぬものと

水道渡せば 愛宕山
さよなら告げよと かけこ鳥
誰を思へば あたら夜の
露に濡れる袖の染み

浦賀桟橋 ああ船頭よ
渡しておくれや迷ひ銭
あなたの懐に
面影を残して 舟はゆきます


朝靄の天守閣 垂れ芒
心あてなく胸を刺して
叶はぬものよ

水道渡して かのう岸
さよなら哀れと 観音﨑
あなた恨めば差し指の
赤い紅も黒ずんだ

浦賀桟橋 ああ船頭の
舵は遅れてつむじ風
あなたの思ひ出に
爪痕を遺して 舟はゆきます

こもれ息 震え指
赤く流れる血も冷めて
あなたまぼろし袖を寄せた

ただ…ただ…待ちぼうけ

浦賀桟橋 ああ船頭の
舵は遅れてつむじ風
あなたの思ひ出に
爪痕を遺して 舟はゆきます

演歌。神奈川県浦賀うらが港を舞台として描いたもので、「天城越え」をベースにして作りました。

「かけこ鳥(鶏。かけこは神道祭事に発する鶏の鳴き声を模したもの)」「あたら夜(明けるのが惜しい夜)」「差し指(薬指の古名)」など、古語が使われているのですが、時代背景は江戸時代です。

舟はある意味、死のメタファなのですよね。そう考えると、後半の歌詞は何を暗示しているかわかると思います。取り戻せないほど退廃してしまった関係に悲観する一人の女性。浦賀に行くと、両側が山に囲まれていて、とても閉鎖的な場所に感じます。しかし、港から海は広がっています。そこに僅かな希望を見出し舟に乗るのです。

誰に恋をしていたのかは、すでに歌詞中にヒントが示されています。元から叶わない恋に近いのですが。